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2020.06.22

オーバーシュートとクラスター

監査役 古川 正志

                                                                                                     監査役 古川正志

新型コロナ感染症による自粛も6月19日に全国的に解除されそうになってきました.しかし,東京と北海道では思わぬところのクラスターが発生し,まだまだ警戒が必要な状態にあります.

 新型コロナ感染症が拡散していると認識され始めた頃に,盛んに使用された用語にオーバーシュートとクラスターがあります.ある日,テレビで女性アナウンサーが日常ではあまり聞き慣れない用語として説明していました.何気なく聞いていたのですが,そうか,これらの用語は確かに生活の中ではなかなか使用されない言葉かもしれないと思うようになりました.

 オーバーシュートは,理工学部系,特に電気・機械・物理・制御系を卒業した人間にとっては重要な用語です.例えば,部屋の温度を25度に一定にしたいとします.現在の室温が10度とします.部屋にはヒータがあり,このヒータで温度調整をするとします.このとき,エンジニアが考える方法は,温度をどんどんあげるようにヒータの出力をあげていきます.そうするとやがて室温は25度を超えて30度くらいに上がっていきます.この状態をオーバーシュートと呼びます.室温の目標は25度ですから,この時点でヒータの出力を弱めます.そうすると室温は下がり始め23度くらいになったとします.この状態をアンダーシュートといいます.そこでまたヒータの出力を少し上げます.室温は再上昇し26度くらいになります.これは先ほどよりは小さなオーバーシュートになります.ここでヒータの出力を少し弱めて室温を25度にします.こうして部屋の温度を一定にします.この様子は,ゴルフでカップより遠くにボールを飛ばし,それからボールのやや近くにボールを戻し,そしてカップインする様子と共通しています.

 オーバーシュートさせて目標に到達させる技術は大変重要な技術です.このような技術を制御工学と言います.同じような現象は機械の振動制御や電気回路を使用した種々の制御(例えばモータの出力)などあらゆる場所にでてきます.この現象は加速度と速度と変位を表した微分方程式を用いると共通になります.

 ところで,なぜ一発で25度に持っていかないのかという疑問を思うかもしれません.このような制御をクリティカルダンピングといって,実は,この方法は外部からの刺激に対して非常に不安定であることが知られているからです.山の頂上に向かうのに刃物のようなエッジの上をあるいて山の頂上を目指すようなもので,少し,体が揺れたり,風が強く吹くと崖下に落ちる危険をともないます.

 一方,クラスターは15〜20年程前によく使用されていたかと思います.このころ政府や自治体では産業クラスターや地域クラスターといいました.こうしたクラスターは葡萄の房のように異業種の産業が集まる,あるいは,地域の異なる職種の人々が集まって新しい何かを生み出そうというキャッチフレーズでした.古くはクラスター爆弾というのもあります.一つの爆弾から小さな爆弾がいくつも飛び出す殺傷力の無差別な残酷な爆弾です.近年では,インターネットの繋がりを示す指標として使用されていました.15年前くらいから100万サイトも繋がるネットワークにはどのような性質があるかを調べることが熱心に行われました.特に,インターネット上での情報拡散が早いのはなぜかと言う理由が考えられ,そのネットワークの一つとしてスモールワールドネットワークが考えられました.こうした社会的な現象は昔から知られ,この現象を調べる実験として19世紀にはミルグラムがある町からある町迄何人の経由で届くかという実験をおこなっています.

 ネットワークは点とその点をつなぐ線で表すことができます.スモールワールドネットワークはネットワークでは想像より少ない点と線の経路で情報が届きます.そのときにモデルを表すパラメータとしてクラスタリング係数と平均経路数が使用されました.ネットワークの中にはクラスターがありこの密度をクラスタリング係数と言いました.つまり10点をつなぐ線は何本あるかを調べ,これを点の集まりの度合い,クラスター度(クラスタリング係数)としました.10点だとすべてをつなぐ線の数は1024本あるが実際は500本くらいしかないとクラスタリング係数は約0.5となるわけです,実際は,大きなクラスターが少しあり,小さなクラスターがたくさんある構造が多いので,別のモデル(バラバシモデル)も考えられています.しかし,クラスター間をつなぐ少数の線があり(人でいうとあちこちに顔を出す人),情報伝搬を早くします.

 平均経路数は,ある点からある点迄何本の線で到達するかをすべての2点で調べ,その平均をとったものです.クラスターがあるとあちこちに繋がる線がでてきますので経路長が短くなります.ちなみに先のミルグラムの実験では世界の人々は6人で繋がることが明らかになり,これはシックスデグリーと呼ばれ映画にもなりました.

 

 新コロナ感染症では制御のようにオーバシュートさせないことが重要なのでエンジニアの感覚とは異なるものがあります.それでも北海道で1日10人くらいの感染者数で制御しようとすれば,なにか制御方法を考えることができるかもしれません.新コロナ感染症でのクラスターは疫病学の用語ですが,3密を避けて早く皆が笑顔で外出できるようになるといいですね.

 

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