4月5日付けの朝日新聞にトランプ大統領の相互関税計算式が掲載されていました。その計算式は
Δτi = [ xi - mi] / εφmi
です。ここで、ΔτiはA国(米国)がB国にかけるべき追加関税率の変化量、xiは国A(米国)が国Bに対して輸出している量(対外輸出額)、miは国A(米国)が国Bから輸入している量(対外輸入額)、εとφは対外輸入額miを調整するパラメータとあります。面白そうなのでどうしてこのような式が出てくるのか少し考えてみました。
A国がB国に対して貿易赤字とは
xi - mi < 0
を意味します。これを対等な貿易にするにはA(米国)が国Bから輸入している量の赤字分加えて等式にする必要があります。この赤字分をΔmiとして
xi - mi + Δmi = 0
とすれば対等と考えています。このΔmiを輸入額 mi にさらに追加関税をかけて補正しようとします。そうすると
Δmi = Δτi mi
となります。ところが関税率をΔτi上げると輸入額がその影響を受けて変化することが考えられます。そこでそれを調整するのがパラメータεとφを導入しています。実際に調べて見ると、εは価格弾性(the elasticity of imports with respect to import prices)*1、φはパススルー率(the passthrough from tariffs to import prices)*1と呼ばれるパラメータでした。価格弾性とは輸入品の価格変動に対する需要の反応度(負の値)、パススルー率は関税コストを価格にどれくらい転嫁するかの値です。USTR(United State Trade Representative)*1の発表では、そこに掲載されている参考文献からε = (-)4、φ =0.25と示されています。この関税の増加率Δτiに伴う輸入量の価格変動をこれらのパラメータで調整すると
Δmi = Δτi ε φ mi
と修正されます。これを対等となる式に代入すると
xi - mi + Δmi = xi - mi + Δτi ε φ mi = 0
となります。この式から
Δτi ε φ mi = - ( xi - mi )
なります。εの値は減少する比ですが、これを一般にはプラスの値として取り扱うのでεを− εで置き換える必要があります。そうすると
Δτi ( - ε) φ mi = - ( xi - mi )
なります。これから-ε φ miで両編を割り算すると
Δτi = [ xi - mi ] /ε φ mi
が得られます。先ほど書いたようにε = 4、φ = 0.25を採用すると、ε φ =1となりますから
この式は
Δτi = [ xi - mi ] / mi
となります。これは
追加関税率 = (A国の輸出額−A国の輸入額)/ A国の輸入額
= A国の貿易赤字/ A国の輸入額
とあまりにも簡単な式になってしまいます。実際はこの関税率を半分にするとのことで
追加関税率 =Δτi / 2
となっています。
この計算式には多くの批判が上がっていますが、もはやこの計算式を掲載したReciprocal Tariff Calculations*1のページは見ることができなくなっています。ここで得られている式のどこがおかしいかを考えるのも一興です(例えば、mやx がすでに関税のかかった額なのか正味の関税前の額なのかは不明です。もし正味の額であればmi は (1+τ) miで置き換えないと不自然です。また、x iは(1+μ) x i であるはずです。ここで、μはB国がA国にかけた関税率です)
*1 https://ustr.gov/issue-areas/reciprocal-tariff-calculations (2025年4月5日)