3ヶ月ほど前に天気予報を見ていて、温暖前線と寒冷前線がなぜできるのか中学校の理科で教わったことをぼっと思い出しました。私の記憶は以下のようなものです。温暖前線は暖かい空気団が冷たい空気団の上にのしかかりそのときにできる上昇気流が雨雲(積乱雲)を作る、寒冷前線は逆に冷たい空気団が暖かい空気団に滑り込みそのときにできる上昇気流が雨雲(層雲)を作るためです。遠い記憶なので、正確でないかも知れません。
天気図で二つの前線は低気圧の中心から大体は漢字の八の字のような曲線上に半円と三角形の記号で描かれています。右側に伸びる曲線が温暖前線で半円は直径側が曲線の上側に接し、丸み側その上部に描かれています。左側に伸びる曲線は寒冷前線で、三角形は底辺が曲線の下側に接し頂点がその下側に描かれています。半円の向きは暖かい空気団が半円の下部から冷たい空気団へと丸みの方向へのし上がっている、三角形の向きは冷たい空気団が三角形の底辺から暖かい空気団に三角形の頂点の方向に滑り込んでいることを表しているのだと気づきました。
たわいないことかも知れませんが、梅雨前線は前線の上側(北側)に半円、下側(南側)に三角形が交互に描かれているのは、南の暖かい空気団と北の冷たい空気団の勢力が拮抗し、押し合いへし合いをしている様子を示していると最近になり気づきました。
ところで、気圧の高い空気が気圧の低い空気に向かって流れ込むのは、水が高いところから低いところに流れるのと同じで分かります。一般には地球上では赤道付近の空気団が温かく(気圧が高く)、北極へ向かうに従って冷たい空気団(気圧が低い)になります。従って、空気の流れつまり風は南から北に流れます。しかし、よく聞く話は地球上の高度が高いところでは偏西風と呼ばれる風が吹いています。この風によって低気圧は反時計回りに低気圧の中心に吹き込み、高気圧は逆に中心から反時計回りに外に吹き込む風になっています。特に、台風では反時計回りに渦を作るような強力な風が吹き込みます。この偏西風や台風の強力な反時計回りの風がなぜ生じるのかについて遠い記憶ですがコリオリの力が働いているからだと思い出しました。そこで、コリオリの力を考えてみました。
コリオリの力を簡単に説明するには、ベクトル積(外積)による運動方程式の記述を用いるのが簡単なのですが、ベクトル積は教わったことがない、あるいは苦手な場合もあるかと思い、ベクトルの回転座標で運動方程式を記述してみました。そうするとページ数がA4で6ページほどになってしまいましたので、3回に分けて書いてみることにしました。それでもベクトルと運動方程式(微分計算)が苦手な場合は読み飛ばしてください。
普通の座標のように水平にx軸、それと垂直方向にy軸となる座標系を設定します。x軸とy軸の交点を座標軸の原点とします。この座標系をx-y座標系と名付けます。ついで、このx-y座標系を反時計回りにθ回転し新しくできた座標系をX-Y座標系と名付けます。x-y座標系を静止座標系、X-Y座標系を回転座標系と呼ぶことにします。この二つの座標系を考えながら回転する座標系での力を順番に考えていきます。今回は静止座標系(宇宙全体)から見て回転座標系(地球上)の座標がどのように記述できるかを説明します。これは電車の中の運動が電車の外から見ている運動としてどのように見えるかと同じ考え方です。
(1)静止座標系から見た回転座標系の座標
静止座標系での力の関係を計算します。回転座標系が静止座標系から反時計回りにθ回転した時のX座標の単位ベクトルをe-x、Y座標系をe-yとします。e-xとe-yは回転座標系の基底ベクトルと呼ばれます。これらの単位ベクトルは、静止座標系から見ると
e-x = [cosθ sinθ]、 e-y = [-sinθ cosθ]
となります。
回転座標系での一点[X Y]をベクトルrで表すと、ベクトルrは静止座標系では
r = X e-x + Y e-y
となります。
(2)静止座標系から見た回転座標系の基底ベクトルの速度ベクトル
回転座標系は、常に回転しているとし、基底ベクトルの時間変化を静止座標系から計算してみます。時間変化は時間tで微分すれば得られます。そこで二つの単位ベクトルをtで微分してみると
d e-x/dt = [-(dθ/dt) sinθ (dθ/dt) cosθ]
d e-y/dt = [-(dθ/dt) cosθ -(dθ/dt) sinθ]
が得られます。回転角の時間変化dθ/dtは角速度と呼ばれるものです。習慣に従って角速度を
ω= dθ/dt
とすると、基底ベクトルの時間変化は
d e-x/dt = [-ωsinθ ωcosθ] = ωe-y
d e-y/dt = [-ωcosθ -ωsinθ] = -ωe-x
となります。くどいようですが、この変化は静止座標系から見た時間変化になります。ベクトルの内積が0になるときは、二つのベクトルが直交する(直角に交わる)場合です。基底ベクトル[e-x e-y]と基底ベクトルの時間変化ベクトル[d e-x/dt d e-y/dt]の内積計算(ベクトルの同じ場所の要素を乗じて加える)をすると
[e-x e-y] ・ [d e-x/dt d e-y/dt]
= [e-x e-y] ・[ωe-y ωe-x]
=ωe-x・e-y - ωe-x・e-y
= 0
となりますから、これら二つのベクトルは直交します。
次回からは
(3)回転座標系の点の静止座標系から見た速度ベクトル
(4)回転座標系の点の静止座標系から見た加速度ベクトル
(5)回転座標系の点に加わる外力の静止座標系から見た力の運動方程式
(6)回転座標系の点の外力に加わる見かけの力
と話を進めていきます。(6)で求められる回転座標系の見かけの力がコリオリの力となります。
ふと思い出したのですが、遠い昔にワシントンの科学博物館を見学に行ったことがあります。そこには巨大な振り子が高い天井から下げられていて、直径2mほどの円周上に配置したボーリングのピンのようなピンを順番に倒していく実験が公開されていました。この振り子はコーシーの振り子と呼ばれるもので、地球の自転を証明していますが、この振り子が円周上を右回りに移動してピンを倒していく理由がコリオリの力とも言われています。